健康で自立した老後を送るために、「手の力」を鍛えることが重要だと注目されている。
長寿医学の専門家であるピーター・アティア博士は、40・50代の男女が、それぞれの手で体重の一定割合を持ち上げられることが理想だと提唱している。具体的には、女性は体重の75%、男性は100%を両手で支えられるべきだという。例えば、体重45kgの女性であれば、片手で17.5kgずつ持ち上げる計算になる。
このトレーニングは「ファーマーズ・キャリー」と呼ばれ、両手にダンベルを持ち、立ったまま保持することで全身の筋肉を鍛える。特に、心臓、前腕、手首、上腕二頭筋などの大きな筋肉群を刺激し、日常生活で必要な「握る力」を向上させる効果がある。瓶の蓋を開ける、荷物を持つなどの動作をスムーズに行うために、年齢を重ねるほど手の力が重要になる。
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ファーマーズ・キャリーは、心臓が筋肉へ酸素を含んだ血液を送り込む働きを活発にし、心拍数を上げることで心臓の機能を向上させる。定期的に続けることで、血圧の低下や心疾患リスクの軽減も期待できる。さらに、全身の持久力と体力向上にも役立つ。
高齢になっても自立した生活を維持するためには、基本的な動作を問題なくこなせることが不可欠だ。ファーマーズ・キャリーは手の力を鍛えるだけでなく、安定した歩行やバランス感覚の向上にもつながり、転倒のリスクを抑える効果がある。
アティア博士は、まず体重の約半分の重さから始め、20秒間保持し、徐々に負荷を増やして1分間続けることを推奨している。筋肉量は30歳を過ぎると10年ごとに3〜8%減少し、60歳以降はその速度がさらに加速する。筋力トレーニングは高齢者だけでなく、若い世代にも有益だ。ファーマーズ・キャリーは、重い買い物袋を持つ動作に似ており、手の力と体幹の安定性を強化し、日常生活の動作をよりスムーズにする。
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この運動は、手の力を向上させ、高齢者が瓶の蓋を開けるといった簡単な作業を行えるようにする。これは、自立した生活と介護施設での生活を分ける重要な要素となり得る。また、前腕筋、三角筋、僧帽筋をはじめとする上半身の筋肉や手、脚の筋力を集中的に鍛えることで、買い物袋を持ち上げたり、孫を抱いたり、荷物を運んだりといった日常動作をより楽にする。
筋力トレーニングを行わないと、50〜70歳の間に筋肉量の30%を失う可能性がある。筋肉量が減少すると、筋力低下によって移動能力やバランスが悪化し、不意の動きに対応しにくくなり、転倒時の回復も困難になる。体重の75%を持ち上げる動作には、安定した体幹が必要だ。腹筋、外腹斜筋、下背部の筋肉は上半身と下半身をつなぐ重要な役割を果たし、強い体幹は正しい姿勢を維持し、よりコントロールされた動きを可能にする。これは、高齢者にとって命を守る手段にもなり得る。
この運動は手の力を高めることで、脊椎や股関節の健康的な骨密度とも深く関係している。欧州骨粗鬆症研究グループの調査によると、50歳以上の男性1,265人、女性1,380人を対象にした研究で、手の力が弱い女性は脊椎と大腿骨頸部の骨密度が著しく低く、脊椎骨折のリスクが高いことが明らかになった。