
ドナルド・トランプ米国大統領は、米製造業者に圧力をかけ、工場を米国に呼び戻そうとしている。
2日(現地時間)に発表された大規模な相互関税がその手段だ。
しかし専門家らは、米国の高い生産コストを考えると、これは実現不可能な目標だと口をそろえて指摘している。
28日付フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、米製造業の象徴であるAppleのiPhoneをトランプ大統領が望むように米国内で生産することは、決して実現可能ではない。
モトローラ工場の閉鎖
米国で最後にスマートフォン工場が設立されたのは2013年だ。
モトローラは当時、米国内での生産が高コストで失敗するという通念を覆すため、米国内での製造設備の稼働に踏み切った。しかし、テキサス州フォートワースに建設された工場は、稼働からわずか1年で閉鎖に追い込まれた。売上が振るわず、高コストも負担できなかったためだ。
サプライチェーンの専門家らは、トランプ大統領のプロジェクトもモトローラ工場と同じ運命をたどるだろうとみている。
iPhoneを米国で組み立てると、価格が最大3,500ドル(約49万9,129円)まで高騰する可能性があるとの予測も出ている。
労働コストだけが問題ではない
iPhoneを米国で生産すれば労働単価が高くなり、価格が高騰するという点がよく指摘されるが、専門家らはそれだけが問題ではないと指摘している。
サンタクララ大学リービー経営大学院の情報システム(IS)教授、アンディ・チャイ氏は、「米企業が中国に工場を移転し始めた当初は低賃金が主な理由だったが、その後状況はより複雑化した」と述べている。
チャイ氏は、企業が好むと好まざるとにかかわらず中国に留まり続けている理由について、「中国での生産は迅速で生産対応も柔軟であり、中国が世界レベルのサプライチェーンを有しているからだ」と説明した。単に低賃金だけが理由ではないというわけだ。
複雑なサプライチェーン
Appleは中国での生産比率を減らす努力をしているが、代替生産拠点は米国ではない。すでに10年間インドでサプライチェーンを構築している。
インドで10年かけてサプライチェーンを構築したAppleは、今後中国への関税が継続する場合、米国で販売されるiPhoneを全てインドで生産する方針だ。
Appleが生産ラインを米国に移転することが現実的に不可能な最大の理由は、数十年にわたって構築された複雑な国際サプライチェーンを丸ごと米国に移すことができないからだ。
AppleのiPhoneは2007年の発売以来、約28億台が販売され、売上は1兆ドル(約142兆6,087億9,981万8,602円)を超える。これはAppleの総売上のほぼ半分に相当する。
iPhoneは、約2,700個の部品で構成されており、それらの部品を供給する企業は28カ国、187社に及ぶ。
その中で米国で生産される部品は5%にも満たず、ガラスケース、顔認識用レーザー、半導体などが米国で生産されているにすぎない。
その他の主要部品は中国で生産され、ハイテク部品の多くは台湾、韓国、日本から供給されている。
iPhoneのディスプレイガラスは米国で製造されるが、タッチスクリーン機能を可能にする核心素材のほとんどは韓国で生産され、中国で組み立てられる。
また、iPhoneのアルミニウムフレームは、中国でのみ規模の経済を実現できる高度に特化した機械によって製造される。
iPhoneを一つにまとめる74個の小さなボルトも主に中国とインドで生産され、これらのボルトは一つ一つ手作業で取り付けなければならない。
iPhone、米国生産は困難
調査会社テックインサイトは報告書で、「iPhoneが米国で組み立てられる可能性はほとんどない」と断言している。
報告書によると、「スマートフォンのサプライチェーンは中国に深く根付いており、中国の高度な技術を持つエンジニアと膨大な数の組立作業員が必要だ」と指摘している。
Appleは毎年約2億3,000万台のiPhoneを出荷している。これは、1分間に438台を生産する計算になる。
iPhone 16 Proの場合、256GBモデルを基準にすると、純利益率は約36%で、金額にして約400ドル(約5万7,463円)の利益を上げている。
テックインサイトの試算によると、最終組立とテストのコストはわずか10ドル(約1,426円)、バッテリーコストは4ドル(約570円)、ディスプレイとタッチスクリーンのコストは38ドル(約5,419円)にすぎない。
このような低い生産コストで高い利益率を確保することは、米国では不可能だ。
このため、現在iPhoneの約85%は中国で、残りはインドで生産されている。