複数の作業を同時にこなす「マルチタスク」は、脳の健康に悪影響を及ぼす可能性があるという研究結果が明らかになり、注目を集めている。
スマートフォンでメッセージを確認しながらメールを打ち、テレビを見ながら食事をし、会議中に別の業務をこなすなど、現代社会ではマルチタスクが日常化している。しかし研究によると、マルチタスクは脳に負担をかけ、生産性を下げる恐れがあることが明らかになった。

そもそも脳は、一度に一つの作業にしか集中できないように設計されている。複数のタスクを切り替えるたびにエネルギーが消費され、集中力が分散し、ミスが増えると指摘されている。これが作業効率の低下や脳の疲労、さらには認知機能の低下につながるという。
また、マルチタスクを習慣化すると、注意力が散漫になり、記憶力の低下を招く恐れがある。複数の作業を並行して行う人は、一つの作業に集中する人に比べ、情報の記憶や想起が苦手である傾向にあるという。これは、タスクの切り替えによって情報が短期記憶に定着しにくくなるためだとされている。
さらに、マルチタスクはストレスホルモン「コルチゾール」の分泌を促進し、不安感や疲労感、免疫力の低下を引き起こすことがある。慢性的なストレスが続けば、うつ病などのメンタルヘルスの問題に発展するリスクも高まる。

脳の構造にも影響があるという。マルチタスクを頻繁に行う人は、前頭前野や海馬の灰白質の密度が低下する傾向があることが報告されている。これらの部位は学習や記憶、意思決定に深く関わる領域であるため、長期的に見て脳の健康を脅かす要因になり得る。
特に、スマートフォン、パソコン、テレビを同時に使用する「マルチメディア・マルチタスク」は、脳機能の低下と強く関連しているとされる。
実際のところ、マルチタスクは効率を高めるどころか、生産性を下げることが多い。ある研究では、複数の作業を同時に行うより、一つの作業に集中した方が速く、正確にタスクを終えることができるという結果が示された。
こうした背景から、脳の健康や集中力を保つためには、マルチタスクを避けることが重要だと専門家は強調する。一つの作業に集中する習慣を身につけ、スマートフォンの通知をオフにする、メールやメッセージの確認時間を決めるといった対策が有効だという。また、瞑想や深呼吸、十分な睡眠も脳の疲労軽減に役立つ。
マルチタスクは現代におけるスキルのように見えるが、実際には脳や心身の健康、生産性にマイナスの影響を与えるリスクがある。記憶力や集中力を維持するためにも、「一度に一つのこと」に取り組む意識が求められている。