
夜間に働く人々も、食事の時間を昼間だけに限定することで、心血管疾患のリスクを大幅に軽減できる可能性があるという結果が明らかになった。夜勤勤務はこれまで、心臓病などの健康リスクを高める要因として知られてきた。
9日、アメリカハーバード大学医学部ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のフランク・シア教授率いる研究チームは、科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」で、20人の若く健康な成人を対象にした試験結果を発表した。研究では夜勤を模擬した環境を用い、被験者の食事時間を調整しながら、心血管系のさまざまな指標を測定した。
研究によると、夜間勤務を行う人でも昼間のみに食事を取るようにすれば、勤務時間帯による心血管への悪影響を避けられる可能性があるという。これは、シフト勤務における心臓の健康において、睡眠時間よりも食事のタイミングのほうが深く関与している可能性を示唆している。
研究チームは、若く健康な被験者20人を対象に、時間の感覚を遮断した臨床研究センター内の特別な空間に2週間滞在させる実験を実施した。被験者には夜勤シフトを課し、食事の時間を調整しながら、身体機能にどのような変化が現れるかを測定し、夜勤と食事時間が体に与える影響を分析した。
参加者はいずれも、薄暗い照明の下で32時間にわたり覚醒状態を保ち、決められた姿勢を維持しながら、1時間ごとに同じスナックを摂取した。その後、模擬夜勤作業に臨んだ。一部の被験者は昼夜の2回食事を摂るグループに、他の一部は昼間のみ食事をとるグループに割り振られた。
研究チームは、被験者の自律神経系の反応や、血栓形成に関与するプラスミノーゲン活性化抑制因子-1、血圧など複数の心血管リスク因子を分析した。
その結果、昼のみ食事を取ったグループは、夜勤前後の心血管リスク指標に大きな変化が見られなかったのに対し、昼夜食事グループでは、勤務後に全てのリスク因子が基準値を上回って上昇していた。
これまでも多くの研究で、シフトワークが冠動脈性心疾患などの発症リスクを高めることが指摘されてきた。シア教授は夜勤や時差ボケといった概日リズムのズレに対して、有効な対処法はいまだ確立されていないと指摘した。今回の研究は、食事のタイミングという新たな視点からこの問題にアプローチしたかたちだ。
論文の筆頭著者であり共同責任著者でもあるサラ・チェラッパ教授は、「本研究ではすべての変数を統一した上で比較したため、2グループの違いは睡眠時間や食事内容そのものではなく、『食事をした時間帯』によって生じたと見ていい」と説明している。
研究チームは、「昼夜の食事タイミングが長期的に与える影響を把握するには、さらなる追跡研究が必要」としつつも、「夜勤従事者が夜の食事を控えることで、健康を守る一助になる可能性がある」としている。またこの知見は、「夜勤者に限らず、不眠症や睡眠リズム障害に悩む人々にとっても有益となり得ると期待されている」と強調した。