エストロゲン、男性の脳や身体機能にも深く関与

米紙「ニューヨーク・タイムズ(NYT)」は22日(現地時間)、女性ホルモンとして知られるエストロゲンが、実は健康な脳の発達に欠かせない役割を果たしているとして、神経学者の間で改めて注目されていると報じた。
エストロゲンは、性機能や生殖機能だけでなく、骨の強化や肌のハリの維持、血糖値の調整、血流の促進、炎症を抑制、中枢神経系を支えるなど、体のさまざまな機能に幅広く関与している。
女性の場合、エストロゲンは主に卵巣で生成され、一部は副腎や脂肪細胞でも作られている。一方で、男性の場合は、精巣で作られるテストステロンがエストロゲンに変換され、精子の生成、骨の形成、肝機能、脂肪代謝など、さまざまな身体機能において重要な役割を果たしている。
さらに重要なのは、男女ともに脳内でエストロゲンが独自に生成されていることであり、これが神経学的にも非常に大きな意味を持つとされている。
脳内にはエストロゲン受容体が豊富に存在し、人生のあらゆる段階で重要な役割を果たしている。
妊婦の体内で分泌されるエストロゲンは、胎児の神経回路の形成や脳細胞の生成の調整、さらには特定の脳領域の発達を促進する働きがあり、思春期、妊娠、更年期といった主要な生物学的転換期においても、エストロゲンは脳の構造や機能の再構築に深く関与している。
また、エストロゲンは生涯を通じて脳内のニューロンの発火を調整し、炎症の抑制、神経可塑性の向上、ブドウ糖のエネルギーへの変換、プラーク形成予防、脳の血流改善など、さまざまな神経機能を維持する役割も果たす。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の神経科専門医ロンダ・ボシュクール博士は、多発性硬化症が脳に及ぼす悪影響を防ぐ方法について長年研究を続けてきた。多発性硬化症は、免疫系が神経細胞を攻撃してその保護膜を破壊する自己免疫性の疾患であり、患者の大半は女性だ。
ボシュクール博士は、妊娠後期に多発性硬化症の再発率が70%も減少する点に着目した。胎盤で生成されるエストロゲンの一種であるエストリオールに、認知機能の向上や脳の灰白質の減少を防ぐ効果があることを突き止めた。
更年期症状の治療に主に使用されるエストリオールは、エストラジオールとは異なり、長期的に乳がんのリスクを高めにくいため、安全性が高いとされている。
一部の神経科学者は、エストロゲンの分泌が減少することが、女性におけるアルツハイマー病の発症率が男性の約2倍に上る主な要因の一つだと考えている。
エストロゲンの分泌が減少すると、更年期前まで主にブドウ糖に依存していた脳の代謝が変化し、エネルギー源として使用し始める。これが認知症の発症につながる可能性があると指摘されている。