スイスの捜査当局が安楽死カプセル会社の代表を拘束したと発表し、不穏な陰謀論が広がっている。
スイスメディアの最新報道によると、「サルコ（Sarco）」カプセルを運営するラストリゾート社の共同代表、フローリアン・ウィレット（47歳）が、スイス国境近くのシャフハウゼン刑務所に約6週間拘束されている。サルコカプセルは、窒素量を増加し酸素濃度を急激に低下させることで、安楽死をもたらす装置である。
9月23日にスイス北部の森で起きた悲劇的な自殺が事件の発端であった。米国から訪れた女性（64歳）がサルコカプセル内でスイッチを入れ、窒素注入による酸素欠乏で死亡した。
ウィレットは当時、女性の死について「平和的で迅速かつ品位が保たれていた」と発表し、すべてが計画通りだったと主張した。しかし、状況は一変した。検察が女性の死に対して殺人容疑を提起し、ウィレットは論争の的となった。検視の結果、女性の首に絞殺痕が見つかったことから、検察は意図的殺害の可能性を示唆し、裁判所にウィレットの勾留延長を求めた。ラストリゾート社はこれに対し、「無茶苦茶な主張」と強く反論している。
サルコカプセルはフィリップ・ニッツケ博士が開発した安楽死支援装置だ。ラストリゾート社は寄付と支援金によって運営されている。「ドクター・デス」として知られている物議を醸す人物、ニッツケ博士が設計したこのサルコは、酸素を除去することで、使用者を苦痛なく死に導くとされている。ニッツケ博士は過去に「イグジット・バッグ」と呼ばれるビニール袋を作り、窒息による自殺手段を提供するなど、さまざまな自殺支援ツールを開発してきた。スイス当局がサルコカプセルを押収した後、ニッツケ博士はオランダに戻り、3Dプリンターで新たなサルコを製作している。
女性の死亡前に行われたドイツのホテルでのインタビューも公開された。彼女は激しい頭痛で日常生活が困難な状態にあり、二人の息子も自身の決断を支持していると語った。スイスの別の自殺ほう助団体「ペガソス」にも相談したが、手続きが複雑で待機期間が長いため、サルコカプセルを選んだという。サルコカプセルでの死を「簡潔で負担が少ない」とし、苦痛のない死に大きな期待を寄せていた。
死亡当日の午後3時50分頃、女性は森に設置されたサルコカプセルに入った。ウィレットはカプセルの外から「深呼吸してください」と声をかけ、女性はスイッチを入れて、窒素の注入を開始した。しかし、開始から1分57秒後、内部カメラが女性の膝の動きを捉えた。これを見たウィレットは「激しく痙攣している」と述べた。その後、ウィレットのタブレットから警告音が鳴り、女性の心拍が活動中であることが示された。予想以上に時間がかかったものの、ウィレットは女性がまもなく息を引き取ると考えた。約30分後、ウィレットは女性の死を確認し、ニッツケ博士に「彼女は亡くなった」と報告した。
事件後、スイス当局は捜査を開始し、女性の死をほう助した疑いでラストリゾート社関係者を逮捕し、取り調べを行った。この過程で写真家と弁護士2名も48時間にわたり拘束された。検察はウィレットの勾留延長を決定し、捜査の長期化する可能性を示唆している。スイスの一部法律専門家は、単なる自殺ほう助容疑でこれほど長期間の拘束は異例であると指摘している。
ウィレットの逮捕と拘束の継続により、この事件はスイス国内にとどまらず、国際的にも注目を集めている。特に英国では、多くの人々がサルコカプセルを巡る論争に注目している。英国出身の元空軍技術者ピーター・スコット氏とその妻クリスティン氏が、夫婦として世界初のサルコカプセルによる安楽死を選択したためである。80代の高齢夫婦は、認知症の診断を受けた後、尊厳ある死を計画していた。
今回の事件は、安楽死支援装置が本当に安全で迅速かつ尊厳ある死を保証できるのかという深刻な議論を引き起こしている。ラストリゾート社は、世界中に多くの会員を持つ自殺ほう助団体であるが、今回の事件以降、批判が高まっている。女性の首の傷が意図的な絞殺の痕跡なのか、彼女の疾患によるものなのか、真相は未だ明らかになっていない。