ウクライナ経由のロシア産ガス供給が1日(現地時間)から途絶える。戦争中のロシアとウクライナ間で締結されていた、欧州向け天然ガス供給のパイプライン輸送契約が、2024年12月31日で終了するためだ。
ウクライナ戦争が3年近く続く中でも、ガスパイプラインは稼働を続けていたが、ウクライナが契約延長を拒否したことで運用が停止される。欧州連合(EU)は厳冬期に、全体のガス供給の約5%を失うこととなった。
ガスの短期的な価格上昇は不可避
ウクライナ経由のロシア産ガス供給停止は予想されていたものの、欧州は暖房用ガス需要が増加する厳冬期に、ガス供給の打撃に直面することとなった。少なくとも短期的な価格上昇は避けられない見通しだ。
英紙のフィナンシャル・タイムズ(FT)は、BNPパリバ(BNP Paribas)の先任商品戦略アナリスト、アルド・スパニエル氏の言葉を引用し、「供給減少がガス価格に織り込まれていると考えられるが、当初の急激な価格上昇は避けられない」と指摘した。
ロシアがウクライナのパイプラインを通じて欧州にガスを供給する契約は、2019年末に更新された。両国のガス会社は、10年契約の期限切れ前日に更新に合意した。当時、EU執行委員会はガス供給契約を積極的に支持していた。しかし、2022年2月にロシアがウクライナに全面侵攻して以降、状況は一変した。
EU執行委員会は加盟国に、ロシアの化石燃料依存度を下げるための代替策を模索するよう勧告した。親ロシア的な政権下にあったハンガリーとスロバキアはこの動きに抵抗し、契約更新を積極的に推進した。この2か国のうち、特にスロバキアは契約満了に対する準備が不十分だったため、今回最も大きな打撃を被ることになった。
ロシア、ウクライナ双方に打撃
ウクライナ政府は、数か月前から契約更新を行わない意向を明確にしていた。ロシアが欧州へのガス販売で得た資金で、戦争を継続することを阻止したいと表明していた。
ベルギー・ブリュッセルのシンクタンク「ブリューゲル」によれば、ロシアが代替ルートを見つけられなければ、契約終了による損失は650億ドル(約10兆2,150億円)に達する見込みだ。
ウクライナも多大な財政的損失を被ることになる。パイプライン使用料で、年間約10億ドル(約1,571億円)を稼いでいたが、これを放棄せざるを得なくなる。戦時下で資金繰りに苦しむウクライナにとって、これは大きな痛手となる。
さらにウクライナは、これまでロシアの攻撃を免れていた、広大なガスパイプラインインフラへの被害も覚悟しなければならない。ウクライナのパイプラインを使用しなくなったロシア軍が、このインフラに対して大規模な攻撃を仕掛ける可能性が高い。こうなればウクライナは、戦争終結後もすぐにパイプラインの運用が再開できず、莫大な復旧費用を負担することになる。
欧州への影響
ガスパイプラインの遮断により、代替手段がないスロバキアは深刻な打撃を受けることになった。スロバキアはガス供給遮断への報復措置として、ウクライナへの電力供給を停止することを決定した。モルドバも先月中旬、ロシアからのガス供給の不確定性を理由に国家非常事態を宣言した。
他の欧州諸国も影響を受けているが、スロバキアほどの深刻さではない。ハンガリーはトルコとルーマニア経由でロシア産ガスを調達している。オーストリアは液化天然ガス(LNG)輸入などの代替策を選択した。
LNG価格の上昇
欧州諸国がLNGに注目し始めたことで、アジア諸国との供給確保競争が激化している。EUはLNG価格の上昇に苦しむものの、ロシアの天然ガスなしでも生き残れることを強調してきた。
しかし、専門家らはこれが長期的な解決策にはなり得ないと指摘している。あるベテラン仲介業者は、欧州企業が高騰したガス価格のため、生産を縮小せざるを得なくなり、最終的には安価なロシア産天然ガスの輸入に回帰するだろうと予測した。彼はLNGが本質的に天然ガスより高価であることを強調した。