人工知能(AI)半導体市場を席巻しているNVIDIAが昨年、AIスタートアップに10億ドル(約1,571億円)を投じたことが判明した。
フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は1日(現地時間)、調査会社Dealroomと企業情報開示に基づき、NVIDIAが昨年50社のスタートアップの資金調達に参加し、一部を買収するために計10億ドルを投入したと報じた。
大手顧客社が独自の半導体開発に乗り出す中、潜在顧客となるスタートアップを育成し、将来の主要顧客に成長させる戦略とみられる。
独自ビジネスエコシステムの構築
アマゾン、マイクロソフト(MS)、アルファベット(Alphabet Inc)、MetaなどNVIDIAの主要顧客が独自のAI半導体開発に着手する中、NVIDIAは自ら需要を創出する手段としてAIエコシステム構築に乗り出し、大規模投資を実施した。
同社はAI半導体を供給すると同時に、それを使用するAIスタートアップも育成し、自社製品の需要創出を図っている。
NVIDIAは2023年にも39社のスタートアップの資金調達に参加しており、その年の投資総額は8億7,200万ドル(約1,370億円)に達した。
同社の投資は「コアAI」企業に集中している。高性能コンピューティングインフラの需要を持つこれらの企業は、NVIDIAのAI半導体の潜在顧客でもある。
NVIDIAが大手テック企業にAI半導体を数百億ドル(数兆円)分販売して得た90億ドル(約1兆4,145億円)の手許現金が、これら潜在顧客の育成に一部充てられている。
MS、アルファベットなど大手顧客が独自の半導体開発に注力する中、これらAIスタートアップは将来、NVIDIAの主要顧客となる可能性が高い。
Dealroomの調査によると、NVIDIAが昨年AIスタートアップに投じた資金は、グーグルには及ばないものの、MSやアマゾンを大きく上回る規模だった。
競争当局の調査を招く可能性
NVIDIAのこうした動きは逆風も予想させる。同社が資金力を利用してAIエコシステムの競争を制限しようとしているのではないかとの疑念を当局に抱かせる可能性がある。
米連邦取引委員会(FTC)の元委員長ビル・コバチック氏は、NVIDIAのように市場を支配する企業が大規模投資を行えば、競争当局が調査に乗り出す可能性が高いと指摘した。
コバチック氏は、NVIDIAがスタートアップに投資する代わりに株式を取得することが「排他性の確保」を目的としているかどうかを競争当局が精査するだろうと述べた。ただし、顧客への投資は効果的な投資手法でもあると付け加えた。
投資と買収の並行戦略
NVIDIAは昨年、競合のAMDと共にテスラのイーロン・マスクCEOのAIスタートアップ企業「xAI」に投資し、OpenAI、Cohere、Mistral AI、Perplexityなどの資金調達にも参加した。
さらに、自社のスタートアップ支援プログラムのNVIDIA Inceptionを通じて独自に数千のスタートアップを支援している。NVIDIA Inceptionを通じてNVIDIAの支援を受けるスタートアップは、同社の半導体を割引価格で入手でき、NVIDIAのパートナー企業から一定のクラウド容量が無償で提供される。
NVIDIAはM&Aも積極的に推進している。昨年はイスラエルのAIタスク管理プラットフォーム企業Run:AIなどを買収した。
また、AIソフトウェア企業のNebulai、Octarine、Brev.dev、Shoreline.io、Deci AIなども買収した。
Dealroomによると、昨年のNVIDIAの買収件数は過去4年間の合計を上回っている。