9日(現地時間)レバノン国民議会は軍のトップを務めるジョセフ・アウン司令官を2年以上空席となっていた大統領に選出した。
特に、アメリカとサウジアラビアが支持するアウン氏の大統領選出により、レバノンに拠点を置く親イラン武装組織「ヒズボラ」の影響力が弱まり、中東情勢が安定に向かうのではないかとの期待が出ている。
「ロイター通信」などの海外メディアによると、レバノン議会はこの日、憲法に基づき128名(欠員なし)の国会議員による議会での投票を実施し、99票を得たアウン氏を大統領に選出した。
多数の宗教や宗派が混在するレバノンでは権力が分担されており、大統領はキリスト教マロン派から選出される。
レバノンでは1975年から1990年に断続的に内戦が発生した影響で、以降、勢力均衡のため、大統領はキリスト教マロン派、首相はイスラム教スンニ派、国会議長はイスラム教シーア派が務めることとなっている。
なお、軍のトップもキリスト教マロン派が務めている。
2022年10月末にヒズボラと比較的近い関係にあったミシェル・アウン前大統領が6年の任期を終えて退いて以来、大統領は空席となっていた。
後任選出のため12回の議会会合が開催されるも、各派の調整が難航し、議会で大統領就任に十分な票を獲得できる候補者があらわれなかった。
アウン新大統領は就任宣誓後の演説で「レバノンの新時代の到来だ」とし、同国を無数の経済的・政治的危機から解放することを誓った。
そして、今後は国家としてレバノン軍のみが武器を保有・使用できると強調した。
これがイランから軍事支援を受けるヒズボラを指摘しているのは明白で、イスラエルとの停戦状態を維持し、さらなる衝突を阻止する意向であることを示唆している。
アウン新大統領は「イスラエルの占領を終わらせ、今後の侵略を防ぐため、レバノンでは外交、経済、軍事面で包括的な戦略を論じなければならない」と訴えた。
アウン新大統領はアメリカアやサウジアラビアをはじめとするアラブ諸国から強い支持を受ける人物として知られている。
ロイター通信は、アウン新大統領の選出について、ヒズボラが弱体化し、シリアではアサド政権が崩壊するなど、中東各地でイランが支援する武装組織のネットワーク「抵抗の枢軸」が弱体化する一方、レバノンではスンニ派の盟主サウジアラビアの影響力が復活したことを示すものだと分析している。
実際、レバノン国内でのヒズボラの影響力低下は様々な場所で散見される。
今回の議会投票でも、ヒズボラが支持する立候補者が投票前に立候補を取り下げたことで、アウン新大統領支持により世論も傾いた。