米国大統領の就任式は、これまで悪天候や厳寒、来賓らの騒動などで話題となった事例が複数ある。
1841年のウィリアム・ハリソン元大統領の就任式は、代表的な厳寒の事例として知られる。当時の就任式は3月だったにもかかわらず、寒波が襲来し大雨まで降った。
ハリソン氏は上着も着ずに2時間近く演説を行い、その後悪寒に苦しみ、就任からわずか1か月で肺炎により死去した。
腸チフスが原因とも指摘されているが、寒さの中で長時間雨に打たれたことで健康状態が悪化したというのが定説となっている。
1829年のアンドリュー・ジャクソン元大統領の就任式は、来賓らによって大混乱に陥った。
酔った客がホワイトハウスのカーペットに飲み物をこぼし、カーテンを引き裂き、乱闘まで起こった。ジャクソン氏は結局裏口から脱出し、就任初日の夜をホワイトハウスの外で過ごすことになった。
1969年のリチャード・ニクソン元大統領の就任式は、ベトナム戦争を反対するデモにより混乱に陥っていた。就任式当日もワシントンDC各地で反戦デモが続き、ニクソン氏が乗っていた車にもデモ隊が投げたガラス瓶や石が飛んできた。
1945年のフランクリン・ルーズベルト元大統領の就任式は、第二次世界大戦の最中で大統領の健康状態も芳しくなかったため、わずか15分で終了した。
現在のように就任式の日付が1月20日に固定されたのは、1937年のルーズベルト氏の2期目の就任式からである。
議事堂内部で大統領就任式が行われたのは、ドナルド・トランプ大統領の就任式が40年ぶりであった。
寒さのため就任式が屋内で行われた最近の事例は、1985年のロナルド・レーガン元大統領の再選就任式である。
就任宣誓が行われる正午時点で、当時の気温はマイナス13.8℃、体感温度はマイナス40℃であった。
1937年以降最も寒い天候で吹雪まで襲来し、パレードが中止され、就任宣誓も議事堂内で行われた。
トランプ大統領の就任式も当初は22万人以上を招待し、盛大に執り行う予定だった。
トランプ大統領の前任者であるジョー・バイデン前大統領の際は、寒さではなく新型コロナウイルス感染症の拡大とトランプ支持者らによる議事堂襲撃事件により、就任式が簡素化された。
バイデン前大統領の就任式では、昼食会と舞踏会が省略され、招待客も1,000人程度にとどまった。
歴代の就任式でワシントンDCの公園や街を埋め尽くしていた歓迎の人波は姿を消し、就任祝賀パレードはバーチャルで代替された。
前任者のトランプ大統領が就任式を欠席したため、退任する大統領が就任する大統領を祝福するという米国の伝統も見られなかった。
退任する大統領と就任する大統領が馬車に同乗して就任式場に向かったのは、1837年のマーティン・ヴァン・ビューレン元大統領の時が初めてだった。
この時から、生存している退任大統領が後任大統領の就任式に出席する伝統が生まれた。
この伝統が破られたのは、1869年にアンドリュー・ジョンソン元大統領が自身の弾劾に関与したユリシーズ・グラント元大統領の就任式を欠席した際と、152年後の2021年にトランプ大統領がバイデン前大統領の就任式を欠席した時であった。