
米バイオテクノロジー企業のコロッサル・バイオサイエンシズの研究チームが、約1万3000年前に絶滅した「ダイアウルフ(Dire Wolf)」の復元に向けた第一歩を踏み出した。
ニューヨーク・タイムズ(NYT)によると7日(現地時間)、研究チームは絶滅したダイアウルフの歯や頭骨の化石から抽出したDNAと複製技術、遺伝子編集技術を駆使し、3匹の子狼を誕生させた。米オハイオ州で発見された歯の化石は約1万3000年前、アイダホ州で発見された頭骨の化石は約7万2000年前のものと推定される。
ダイアウルフは氷河時代の北米大陸南部に生息していたとされる。遺伝的に99%以上一致するグレーウルフよりも大型で、強靭な歯と顎を持ち、馬やバイソン、マンモスを狩っていたが、獲物の絶滅と共に姿を消したと考えられている。絶滅から長い年月が経過しているが、米ドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」でスターク家の象徴として登場し、その名が広く知られるようになった。

研究チームはグレーウルフの遺伝子20個を編集してダイアウルフの特徴を付与し、これを胚にして代理母の雌犬に移植した。その結果、順次4匹の子狼が誕生したが、1匹は腸破裂で10日後に死亡。残りの3匹は健康に問題がないという。
6か月前に誕生した雄2匹にはそれぞれロームルス(Romulus)、レムス(Remus)と名付けられた。ロームルスとレムスはローマ建国神話で狼に育てられた兄弟の名前だ。3か月前に誕生した雌1匹は「ゲーム・オブ・スローンズ」の主人公にちなんでカリーシ(Khaleesi)と名付けられた。

現在、子狼たちは約3m高のフェンスで囲まれた約8㎢の非公開敷地で、警備員やドローン、ライブカメラなどによる厳重な監視下で飼育されているという。コロッサル・バイオサイエンシズ は、この施設が米農務省(USDA)に登録され、米動物保護協会の認証を受けていると説明している。
研究チームは、誕生した子狼たちがグレーウルフには見られない特徴を持っていると明らかにした。同年齢のグレーウルフより体格が20%大きく、薄い色の毛が密生しているだけでなく、尾の毛が異常に豊かで、首にたてがみのような毛が生えているという。コロッサルの最高科学責任者ベス・シャピロは、この子狼たちが「絶滅動物の復活における初の成功例」だと主張している。

この復元の試みは、ドードーやマンモスなど絶滅動物の復活プロジェクトに弾みをつける可能性があるとの見方がある一方、真の復元ではないとの批判も出ている。
コーネル大学のアダム・ボイコ遺伝学者は、復元された子狼たちが20個のダイアウルフ遺伝子を持つとされるが、グレーウルフとダイアウルフを区別する遺伝子はさらに多く存在する可能性があるため、真の復元とは言えないと指摘。また、一部のDNAを改変して作られた狼は、絶滅種と遺伝的に完全に同一とは言えないとも述べた。さらに、復元された子狼たちが狼の行動を学べる群れで育っておらず、古代と同じ餌を食べていない点も指摘した。
NYTによると、コロッサルは当初ドードーやマンモスの復元を目指していたが、マンモス復元のための象などの体外受精が困難だったため、比較的体外受精が容易な狼の復元に方針を転換したという。