
ドナルド・トランプ米政権がウクライナに対し、失った領土への執着を止め、停戦に応じるよう公然と要求した。ウクライナは交渉の余地はあるものの、降伏はしないと表明。一方、ロシアは米国の姿勢を歓迎した。
トランプ大統領「クリミア半島のためなら11年前に戦うべきだった」
トランプ大統領は23日、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で投稿し、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を非難した。前日のゼレンスキー大統領の発言に触れ、「とうに失ったクリミア半島に関する発言は、ロシアとの和平交渉に極めて有害だ」と指摘。「誰もゼレンスキー大統領にクリミア半島をロシア領と認めろとは言っていない」とした上で、「クリミア半島が欲しいなら、なぜ11年前にロシアに無抵抗で明け渡した時に戦わなかったのか」と批判した。さらに「ゼレンスキー大統領の扇動的発言は戦争終結を困難にしている。彼には主張の根拠がない」と断じた。トランプ大統領は「ウクライナの状況は極めて深刻で、ゼレンスキー大統領は和平か国家消滅か、さらに3年戦うかの選択を迫られている」と述べた。「ゼレンスキー大統領の発言は『キリング・フィールド(大量虐殺)』を継続させるだけだ。私はロシアとは何の関係もない」と強調した。
ゼレンスキー大統領は22日の記者会見で「クリミア半島の領有権認定など論じる余地もない。それは我が国の憲法違反だ」と述べ、「ここは我々の領土であり、ウクライナ国民の領土だ」と主張。米国からそうした提案を正式に受けていないとし、仮に提案があれば「即座に拒否する」と強調した。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は20日、西側政府関係者の話として、米代表団が17日にパリで欧州代表らと会談したと報じた。同時に、米国が2014年にロシアが不法併合したクリミア半島をロシア領と認める条件を含む停戦案をウクライナに提示したと伝えた。この案には、ウクライナが望む北大西洋条約機構(NATO)加盟禁止条項が盛り込まれた一方、米国によるウクライナの安全保障に関する具体的約束は含まれていなかったという。
既に失った領土もロシアのものに
インド訪問中の米国J・D・ヴァンス副大統領は23日、さらに踏み込んで、ウクライナが2022年以降のロシア侵攻で失った約20%の領土も放棄すべきだと示唆した。ニューヨーク・タイムズ(NYT)によると、ヴァンス副大統領は「米国はロシアとウクライナに極めて明確な提案をした」と述べたという。そして「今こそ彼らが受け入れる時だ。さもなければ米国は手を引く」と明言。「我々は殺戮を止めようとしている。現状に近い形で領土境界線を凍結しようとしているのだ」と説明し、「つまり、ウクライナとロシアの双方が現在支配している領土の一部を手放さなければならないということだ」と主張した。
ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官はヴァンス副大統領の発言について「我々は確かに米国の継続的な仲介努力を歓迎する」と述べた。「我々は引き続き対話を続けているが、和平交渉に関しては微妙な差異があるため、さらなる協議が必要だ」と付け加えた。
トランプ大統領は23日、SNSでの発言とは別に記者団に対し「私見では、ロシアとは和解に達したようだ」と述べた。「ゼレンスキー大統領と交渉していればもっと容易だったが、これまでのところ難しい状況だ」と付言した。同日、ウクライナのユリヤ・スビリデンコ第1副首相兼経済相はSNSのXに「交渉はするが降伏はしない」と投稿。ロシアが再侵攻の足がかりを得ることはできないと強調した。同時に「ロシアによるクリミア半島占領を絶対に認めない」と断言した。
米国は言葉だけでなく行動でも交渉を促した。マルコ・ルビオ米国務長官、中東担当特使スティーブ・ウィトコフ氏らを含む米国のウクライナ停戦交渉団は、17日のパリ会合に続き、23日にロンドンで欧州およびウクライナ代表らと会談する予定だった。しかし、ルビオ長官とウィトコフ氏は当日突如会合をキャンセルし、米国のウクライナ担当特使のキース・ケロッグ氏のみが出席した。ルビオ長官のイギリス訪問中止を受け、フランスとドイツの外相も会議を取りやめ、この日の会合は実務レベルに大幅縮小された。共和党上院議員だったルビオ長官は3年前、議会で米国がロシアのクリミア領有権主張を認めないよう法案を主導していた。