食後に胸やけの症状が現れると、多くの人が逆流性食道炎を疑う。しかし、薬を服用しても症状が改善せず、夜中に頻繁に嘔吐する場合は、希少疾患である「食道アカラシア」を疑う必要がある。
食道アカラシアは、下部食道括約筋が十分に弛緩しない病気だ。食道括約筋は、胃の内容物や胃酸の逆流を防ぐ役割を果たしている。
この病気の患者数は少ないものの、症状は深刻だ。食道括約筋と食道下部の神経細胞に異常が生じると、食べ物を胃に送る蠕動運動が円滑に行われなくなる。その結果、食べ物が食道内に停滞してしまう。
これにより、食べ物が食道内に滞留し、夕食後に横になると誤嚥により目が覚め、激しい嘔吐を引き起こす。嘔吐の症状は特に夜間に現れやすい。胸部痛や胸骨後部への不快感も生じ、食事摂取が困難になることもある。
食事中や食後数時間以内に未消化の食べ物を嘔吐することもある。これらの症状により正常な食事摂取が妨げられ、体重減少につながる。
最大の問題は、食道アカラシアを10年以上放置すると食道がんの発生リスクが10〜30倍に上昇するということだ。食道がんは比較的稀ながんだが罹ると致命的で、5年生存率は約50%と低い。
これは食べ物の滞留が食道で炎症を引き起こし、扁平上皮がんの発生につながる可能性があるためだ。
また、滞留した食べ物が細菌により発酵し、ニトロソアミンという発がん性物質を生成する。実際に、食道アカラシア患者からは異形成が発見されている。
食道アカラシアの原因の大部分が不明である。ただし、筋肉を制御する神経細胞の消失により、食道の蠕動運動機能が低下することが原因と推測されている。
リンパ腺がんや感染症など、食道筋に影響を与える疾患によって二次的に食道アカラシアが発症する可能性もある。
食道アカラシアと診断されても、失われた神経細胞を再生することはできない。そのため、治療は症状の改善と合併症の予防に重点が置かれる。
治療時には、薬物療法、ボツリヌス毒素(ボトックス)注入、バルーン拡張術、POEM(経口内視鏡的筋層切開術)などを行い、食べ物の通過を改善することを目的とする。POEMとは、内視鏡を用いて食道外側の厚くなった筋層を切開する手術である。