英下院、第2読会にて賛成330票で可決
余命6か月以下の成人末期患者が対象
英国下院で、末期患者に自ら命を絶つ権利を認める「安楽死(assisted dying)法案」が第1関門を通過した。ただし、法制化までには数年を要する可能性があり、法案をめぐる賛否両論は今後も続くとみられる。
先月30日(現地時間)、BBCなど現地メディアは、下院は29日の第2読会で賛成330票、反対275票で同法案を可決した。
この法案は、イングランドとウェールズにおいて、余命6か月以下と診断された成人の末期患者が医学的支援を得て死を選択することを認めるものだ。
法案が成立すれば、安楽死を希望する患者は医師2人と高等裁判所裁判官の承認を得る必要がある。裁判官は医師の判断の妥当性や患者本人の意思決定が明確であるかなどを確認する。薬物は医師ではなく患者が自らの投与しなければならない。医師は患者の要請に応じて薬物を提供するのみで、直接投与は禁じられている。
第1読会では投票が行われないため、今回が本法案に関する議会で初めての採決となった。今後、法案は下院委員会、第3読会などの手続きを経て上院に送られる。その過程で修正が加えられる可能性もある。
法案が発効するまでには最長で2年を要すると見込まれる。下院での5段階の審査を経た後、上院でも複数の手続きを取る必要があり、途中で修正や否決される可能性もあるためだ。
現地メディアは今回の「安楽死法案」の第1関門通過を「歴史的(historic)」と評価した。英国では過去4回、同様の法案が議会に提出されたが、いずれも可決に至らなかった。現在、英国では安楽死と尊厳死の両方が禁止されている。
採決前、全議員は党論なしで約5時間にわたり激論を交わした。最後まで賛否が拮抗し、可決は不透明だった。法案を提出したキム・レッドビーター議員(労働党)は議論の冒頭で「我々は生死の選択について議論しているのではなく、死を迎える人々にどのように死ぬかの選択権を与えることについて議論している」と強調した。
一方、反対派のダニー・クルーガー議員(保守党)は「国家の自殺サービスよりも良い案を議論すべきだ」とし、「社会で最も弱い立場にある人々を危害から守る役割を放棄しかねない」と主張した。
この日、議会外に集まった支持者らは採決結果の発表を受け、抱き合って喜びの涙を流した。尊厳死を求める団体は今回の採決を「末期患者により大きな選択肢と保護を与える歴史的な一歩」と歓迎した。ガーディアン紙に載せられた最近の世論調査では、英国民の4分の3が法改正を支持しているという。
世界の大半の国々は安楽死を認めていない。安楽死を合法化しているのはオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、スイス、ベルギー、オーストリア、スペイン、米国の一部の州などで、末期診断や耐え難い苦痛といった許可基準は国や地域によって異なるとワシントン・ポスト(WP)は説明した。
多くの国で違法とされているため、世界で初めて安楽死を認めたスイスには相当数の外国人が訪れ、死を選んでいる。チューリッヒの安楽死支援団体ディグニタス(DIGNITAS)で1998年から2023年の間に死を選んだ3,900人余りには、ドイツ人1,454人、英国人571人、フランス人549人、米国人207人が含まれていたと、ワシントン・ポスト紙は伝えた。