北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は、誕生日を迎えたが、北朝鮮のメディアは今年も関連の報道を行わなかった。この日の労働新聞は金委員長の誕生日に触れず、載寧郡(チェリョンぐん)の地方工業工場の竣工式出席とラオスのトーンルン・シースリット主席からの返電内容を伝える報道にとどまった。対外向け報道機関である「朝鮮中央通信」でも、金委員長の誕生日関連の報道は見当たらなかった。
北朝鮮メディアが金委員長の誕生日を言及したのは、2014年、元NBA選手のデニス・ロッドマン氏が訪朝した際、朝鮮中央通信が「元帥の誕生日を迎え、北朝鮮に来た」と報じた一度きりだ。
金委員長は2012年の就任以降、誕生日を特別に祝うことはない。これは祖父・金日成(キム・イルソン)氏の誕生日を太陽節(4月15日)、父・金正日(キム・ジョンイル)の誕生日を光明星節(2月16日)とし、盛大に祝うのとは対照的だ。
最近、金委員長が統一放棄論を唱え、独自の偶像化を進めてきたことを考えると、今回も誕生日を静かに過ごしたのは異例だとの見方が出ている。北朝鮮は金委員長単独の肖像バッジを配布し、先代と並べて肖像画を掲示するなど、偶像化を本格化させた。昨年は彼の誕生日に、通常先代の誕生日や元旦に行われていた住民の「忠誠宣誓」行事が異例にも実施されたという。
今回、誕生日を静かに過ごした背景には、金委員長が自身の誕生日を祝うことに負担を感じた可能性が指摘されている。丹東市(タントウし)の北朝鮮筋によると、金委員長は昨年の北露首脳会談で「百年の大計」を語り、先代も解決できなかった食糧問題を解決する自信を示したという。しかし、海外での農業など解決策の実現には約3年かかる見込みで、昨年の豪雨による被災者問題も足かせになっているとされる。
もう一つの要因として、金委員長の実母である高容姫(コ・ヨンヒ)氏の出自が挙げられる。高氏は金正日の三番目の妻で、在日朝鮮人出身の舞踊家であり、北朝鮮の「白頭血統」の物語とは距離がある。これは金委員長の正統性を弱める要素となりうる。
実際、北朝鮮は2012年に高氏を「偉大な先軍朝鮮の母」と讃える記録映画を制作し、一部幹部にのみ公開した。しかし、彼女が在日朝鮮人出身だという事実が、一般住民に知られれば問題になる可能性があるため、映画は一般公開されなかった。